古典音律について

 

♦ 古典音律 その3(ウェル・テンペラメントから近代調律法) ♦


ミーントーンから
次世代調律法へ
 
18世紀初頭のバロック後期、鍵盤楽器がパイプオルガンから手軽なクラビコードやチェンバロへと普及していく中、作曲家たちは楽曲の調性の多様化に対応する為に、ミーントーンで問題のウルフ5度や極端にうなりの多い3度音程を改善された音律を欲していた様です。この時代の次世代調律法「ウェル・テンペラメント」とは、それら問題を解決し、すべての調性で程よく演奏できる音律などを指します。
しかし、これらの成り立ちについては、諸先生方による多くの説が存在します。私の様な若輩者が語るのは烏滸がましいのですが、ここでは良く知られている古典調律法の構造について探ってみようと思います・・・

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ヴェルクマイスター
Ⅰ-Ⅲ 調律法
 1681(1/4PC分割)
ピタゴラス音律での問題のピタゴラス・コンマ(PC)を4つの5度に1/4PC分ずつ分散し、残りの8つの純正5度とでウルフ5度を解消して、すべての調性で演奏を可能にした古典音律の代表的な調律法の一つです。
長3度は、C-E、F-A が最も純正に近く、C、Fから離れるにつれ純正度が薄れていく。長3度の純正度の変化により、この時代の調性に対する考え方、調特有の明暗、響きといった「調性格」を区別する事が意識されている様です。
 
*1-3調律法という記述は地域によって第1調律法とも、第3調律法とも云われるので、合わせて表記しています。
 
 

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キルンベルガー
調律法
 
J.S.バッハが使用した調律法に関しては多くの説があります。その大バッハの高弟であるヨハン・フィリップ・キルンベルガー (1721-1783) の調律法は良く知られているが、残念ながらそれらが大バッハが推奨した調律法ではなかったという説があります。しかし、このキルンベルガーの音律は後世の作曲家・演奏家たちに好まれ、第3調律法は標準的な音律が平均律に淘汰されつつも19世紀半ばまで支持されていたようです。

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*第1調律法 1766
この調律法は、純正律ハ長調を元に、残りの5度を純正5度とDes-Ges間のシワ寄せのスキスマ分狭い5度とで5度圏を構成しているが、やはり純正律のD-A間と同じSC分狭いウルフ5度がネックとなっている。
1482年のラミスの純正律とよく似ていて、同じく純正音程比を元に構成されている為、傾向的には純正律の一種にあたるのでしょう。
 
*スキスマ:ピタゴラスコンマとシントニックコンマの差。1.9537cent、音程比 32805/32768
 
 

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*第2調律法 1776
第1法の問題のD-A間ウルフをこの第2法では、D-A-E間で2等分(1/2SCずつ)割り振ってウルフを緩和している。但しその分、純正3和音(F-A-C)を一つ減らす事になってしまい、また約11cent狭い5度ウルフも決して許容範囲だとは言えない。
 
 

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*第3調律法 1779(1/4SC分割)
第3調律法は、全音階を純正律から「C-G-D-A-E」の4つの5度をミーントーン5度に割り振る事により、C-E間の純正3度を残し、あとのDes-Ges間のスキスマ分狭い5度と残りの純正5度で五度圏が成立している。最も広いピタゴラス長3度も2個にまで減らせている。
この第3法は第1・2調律法までとは違い、結果的にヴェルクマイスター1-3と同様の「調性格」豊かな傾向になっており、第1・2法で問題の全音階中のウルフ5度をミーントーン5度を使う事で分散しつつも長3度は純正長3度からピアタゴラス長3度まで幅広いバリエーションを持っている。これも良く知られた古典音律の代表的な調律法です。
 
 

 

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ヴァロッティ調律法  1754(1/6PC分割)
フランシスコ・アントニオ・ヴァロッティ (1697-1780) の1/6PC(ピタゴラスコンマ)を使用した調律法。5度圏のFからHまでの6つのダイアトニック5度にPC分を6等分にして割り当てる事で5度のウルフをなくし、全調性を演奏可能にしている。長3度は、C-E、F-A、G-H が最も純正に近く、C(及びF,G)から離れるにつれ1/6PCずつ純正度が薄れていく。 -1/6PC5度、純正5度、それと1/6PCずつ変化する長3度との組み合わせで、3和音の響きが少しずつ変化する構成となっている。
 
 

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ヤングII 調律法  1800(1/6PC分割)
同じく1/6PCを使ったトーマス・ヤング (1773-1829) の調律法。ヴァロッティ調律法の、5度圏を右回りに5度シフトしたもの。ヴァロッティ調律法がダイアトニック5度(-1/6SC5度)とクロマチック5度(純正5度)で区別しているのに対し、ヤング2ではCを起点に#系は-1/6SCの5度、♭系は純正5度という構成になっている。
 
 

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マールプルクの
2つの調律法
 
フリードリッヒ・ウィルヘルム・マールプルク (1718-1795) の数ある調律法の中で12等分平均律に近い2つの調律法。マールプルクはキルンベルガーとは違い、等分律論者だったと云われている。
この第7・10調律法は、上項のヴェルクマイスター1-3法やキルンベルガー3法とは違い、純正5度を残しつつも長3度が均一なので、どちらも2種類の3和音(平均律長3度+純正5度/平均律長3度+分割PC5度)しか現れません。長3度のうなりが均等なので「調性格」を主張しない、等分律の傾向にあると言えます。
 
 
 

 

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12等分平均律  (1/12PC分割)
ピタゴラス音律を基準に考えた場合、12個の5度にPC分を均等に割り当てると、全て1/12PC分狭い5度のみで5度圏を構成できる。そして全ての長3度は「2/3PC-1スキスマ」分広い長3度となり、又すべての半音階も同一の幅となります。
音程比から考える平均律より、「コンマをどう分割・配置しているか」を考える事で、平均律に至るまでの音律の変遷が見えてきます。
 
 

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*各調律法の倍音の周波数と主要音程間のビート表 
 

*ウェルテンペラメントとは、日本のオルガン研究の権威 平島達司 氏の著書「ゼロ・ビートの再発見」の文中にある言葉で、調律業界では比較的よく使われていますが、件の誤訳されたバッハ「平均律クラヴィーア曲集」冒頭の表題「Das Wohltemperirte Clavier」(程よく調律された鍵盤楽器)中の”Wohltemperirte”と同じ意味を持ちます。
 

*参考文献
平島達司 著「ゼロビートの再発見 本編/技法編」
      「オルガンの歴史とその原理ー歴史的オルガン再現のための資料ー」
野村満男 著「チェンバロの保守と調律 本編/補遺編」
      「Morzartファミリーのクラヴィーア考」
H.ケレタート 著「音律について」
ウィキペディア
平島達司 氏 過去のミュージックトレード誌投稿記事より


*計算はexcel関数(極力誤差を少なくする為下4桁まで算出)
日々、勉強しながら更新しておりますのでご了承下さい m(_ _)m

 

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