古典音律について

 

♦ 古典音律 その2(ミーントーン音律) ♦


 ミーントーン音律
(中全音律)
 
パイプオルガンが全盛のルネサンス期の教会音楽では、ピタゴラス音律で問題の比較的うなりの多い長3度は好ましく思われていませんでした。そんな中、純正長3度を主体とした音律が生まれました。
1523年ピエトロ・アロン(1490〜1545)の調律法は、純正5度を4回重ねた幅と、2オクターブ+純正長3度との間に生じるウルフ分約22cent(シントニックコンマ)を4等分して、その「1/4 S.C.」を純正5度から引いた(=2オクターブ+純正長3度を4等分)5度で5度圏を構成する事により、純正長3度を作り出す調律法です。 この「1/4 S.C.」分狭い5度(約697cent)はミーントーン5度としてその後の調律法にも現れます。
 
*シントニック・コンマとミーントーン5度
 
 
ちなみにミーントーン(中全音)とは、純正律の小全音(約182cent)と大全音(約204cent)の中間の幅(約193cent)で、この音律の全音階的全音が中全音で構成されている事を示しています。これは純正長3度(約386cent)の2分の1の幅になります。

 
このミーントーン音律の原型は、純正長3度を多く持つ反面、ひとつの5度(Es-As)は非常に広くなり(約+36cent)その影響でそのウルフ5度をまたぐ長3度(減4度)が約+41centと非常に広くなってしまいます。41centのズレはもはや調性を失っており、非常に使用が困難な音程といえます。
但し、変ロ(B♭)-へ(F)-ハ(C)-ト(G)-ニ(D)-イ(A)長調での主要三和音の長3度は、うなりのない美しい長3度になります。

 

 


 ミーントーンの
 改良型
 
アロン考案のミーントーン音律で問題の、非常に広いウルフ5度(純正5度+36cent)を何とか緩和し、なおかつ多くの純正長3度を確保できる様、幾つかの試みがなされてきました。。。

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*プレトリウス ミーントーン調律法 1618?
1618年頃、北ドイツのプロテスタント音楽の作曲家、ミハエル・プレトリウス(1581〜1621)による著書「Syntagma Musicum(音楽大全)」の中で示されたこの調律法は、問題のウルフ5度の両脇に純正5度を配置する事によりウルフを改善したもので、ウルフ5度を約738centから約727centまで縮小し(1/2 S.C.分縮小)、約427centの広い長3度も4つのうち2つを 約422centまで緩和されている(1/4 S.C.分緩和)。但し、純正長3度のうち2つが 1/4 S.C.分広い長3度になります。
 
 

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*シュニットガー ミーントーン調律法
北ドイツの偉大なバロックオルガン製作者、アルプ・シュニットガー(1648〜1720)がオルガンの調律に使用したとされる調律法。ミーントーンのウルフ5度を改善すべく、ウルフ5度の両側に4つの純正5度を配し、ウルフ5度を約716centまで縮小しながらも純正長3度を4つ確保している。しかし、約716centのウルフは純正より10cent以上広いので、まだ決して小さいとは言えない。
 
 

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*ラモー調律法
ジャン=フィリップ・ラモー(1683〜1764)の調律法は、上記のプレトリウスMTとシュニットガーMTと同じく、ミーントーン5度に純正5度を加えて、さらにウルフを2つの5度に分散して、ウルフ度合いを改善するとう考えです。
このラモーの調律法について何人かが解釈を示している様ですが、その中で1973年の「H.Legros案」と、1975年の「H.Vogel案」をここで示します。どちらもミーントーン5度と純正5度を適所に配置し、5度圏で見るB-Es-Asの余ったウルフ分を、Esが中心にくる様2つの5度に分けています。結果的に非常に広い長3度もプレトリウスMT、シュニットガーMTよりもさらに改善されています。「H.Vogel案」はピタゴラス長3度より広い長3度が3つあるものの、 "ウェルテンペラメント色" を感じさせられます。
 
 
 

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*各調律法の倍音の周波数と主要音程間のビート表 
 

*参考文献
平島達司 著「ゼロビートの再発見 本編/技法編」
      「オルガンの歴史とその原理ー歴史的オルガン再現のための資料ー」
野村満男 著「チェンバロの保守と調律 本編/補遺編」
      「Morzartファミリーのクラヴィーア考」
H.ケレタート 著「音律について」
ウィキペディア
平島達司 氏 過去のミュージックトレード誌投稿記事より


*計算はexcel関数(極力誤差を少なくする為下4桁まで算出)
日々、勉強しながら更新しておりますのでご了承下さい m(_ _)m

 

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